草野マサムネが、政治や社会について何を話してきたのか。
インタビュー、新聞、ラジオの記録をたどると、イラク戦争への批判から、政治的な発言をすることへのためらい、フェミニズムを学んだ経験まで、いくつもの言葉が見つかる。
有名な対談だけでなく、古い雑誌を紹介する個人ブログや、放送を書き留めたファンの記録も調べた。ただし、本人のインタビュー原文と、誰かが後から書き起こした文章は、同じ確かさでは扱えない。
そこで、以下では確認できた資料と発言の文脈を添えて並べる。原誌や音源に届かなかったものも、後半に資料メモとして残した。調査時点は2026年10月24日。
まず、どんな発言が残っているのか
| 時期 | 話題 | 確認した資料 |
|---|---|---|
| 2003年4月 | イラク戦争と民間人被害 | 当時の新聞報道。元のホームページは未確認 |
| 2013年 | 改憲案を批判した後藤正文への励まし | TheFutureTimesの対談原文 |
| 2013年 | 政治を語る葛藤、同調圧力、消費社会 | 同じ対談の続き |
| 2021年3月 | 原発事故を題材にした七尾旅人の歌 | ファンによる放送記録。元音源は未確認 |
| 2023年5月 | コロナ禍の社会と曲作り | J-WAVE公式記事 |
| 2024年12月号 | 女性ロッカーとフェミニズム | TOKYO FM公式のインタビュー紙面 |
同じ対談の発言は、話題ごとに分けている。別々の機会に繰り返した発言という意味ではない。また、曲作りや文化についての話も含むため、すべてが政党や政策への賛否ではない。
2003年――イラク戦争を批判し、民間人の被害を伝えてほしいと訴えた
古い記録では、2003年4月6日付の「しんぶん赤旗」に、草野のイラク戦争に関する言葉が載っている。記事中の表記は「草野正宗」。スピッツのボーカルとして紹介されている。
記事は、音楽家や俳優がホームページで戦争への反対を表明していると報道。その中で草野は、強大な腕力と経済力を持ついじめっ子が、弱い相手を潰そうとしている、という趣旨で戦争を批判したとされる。
さらに、誤爆によるイラク民間人の被害について、こう求めたと伝えられている。
「できるだけつまびらかに報道してほしい」
ここで確認できるのは、当時の新聞が草野の発言として報じたことまで。元のホームページ投稿や、その投稿日は確認できていない。
なお、この記事に登場したことだけで、草野が新聞の発行元である政党を支持していたとは判断できない。
出典:「ミュージシャンが、俳優が 発言」(しんぶん赤旗、2003年4月6日)
2013年――自民党の改憲案を批判した後藤正文に「がんばって」
政治に直接触れた発言として、原文を読めるのが「TheFutureTimes」第5号の対談だ。相手はASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文。
後藤が、自民党の改憲案を批判した際に草野から励ましのメールをもらった、と振り返る。それに草野は、こう答えている。
「そうそう、“がんばって”って(笑)」
草野自身は、政治や賛否の分かれる問題を語るときにはためらうことがあり、それでも発信する後藤をすごいと思った、と説明する。
改憲案を批判していた後藤への励ましは、本人も認めている。一方、このやりとりには、草野自身が改憲案の条文を論じたり、投票先を宣言したりする発言はない。
出典:TheFutureTimes「音楽と未来」1ページ目。第5号は2013年7月31日から配布され、ウェブ版末尾には同年9月11日の日付がある。号の配布日を伝えた記事も参照。
2013年――「ウソはつきたくない」「ことなかれ主義にはなりたくない」
同じ対談の後半では、政治を語る難しさをかなり率直に話している。
勉強不足を感じて断言に慎重になること。個人の政治的な考えが、音楽と結びつけて受け取られることへの戸惑い。批判ばかりが目立ち、話の中身が届かなくなる心配。
そこで出てくるのが、「ウソはつきたくない」と、「ことなかれ主義にはなりたくない」という二つの言葉だ。
政治の話がしにくい空気にも触れ、非常時には同調圧力が悪い方向に働くことがある、と懸念している。
この発言は、何か一つの政策への賛否というより、意見を持ちながら公に話すことへの葛藤を伝えるものだ。
2013年――大量消費への疑問と、持続可能な暮らしへの関心
同じインタビューには、経済や環境の話もある。
草野は、若い世代が身の丈に合った暮らしを身につけ、大量生産・大量消費とは違う方向へ進むことに期待を寄せる。ただし、これは希望も込めた見方だと自分で断っている。
音楽制作の効率化には寂しさも感じつつ、社会全体で大量消費・大量廃棄が減ることは肯定的に捉えている。
さらに、環境と経済の両立に関心を示し、マーク・ボイルの『僕はお金を使わずに生きることにした』を紹介。具体的な政策を提示した発言ではないが、消費や暮らしのあり方を考えていたことは分かる。
出典:TheFutureTimes「音楽と未来」2ページ目、3ページ目
2021年――原発事故を歌った七尾旅人への評価〈放送記録による〉
2021年3月7日の「草野マサムネのロック大陸漫遊記」は、2011年の日本のロックがテーマだった。
この回を記録したファンブログによると、草野は七尾旅人の「圏内の歌」を紹介。原発事故による被害を題材にした歌だと説明し、賛否のあった当時に歌った七尾を高く評価したという。
記録には、「七尾くんはすごいヤツだな」という言葉が残っている。
七尾本人も同日に、草野が番組でこの曲をかけたことへの感謝を投稿している。ただし、選曲されたことと、書き起こしの一語一句が正確であることは別だ。今回、元の放送音源は確認できていない。
また、この曲への評価だけで、草野の原発政策全般に対する立場までは決められない。
参照:2021年3月7日放送のファンによる記録、七尾旅人の当日の投稿
2023年――コロナ禍で見えた社会の「不具合」と、曲作り
2023年5月18日放送のJ-WAVE「SONAR MUSIC」では、スピッツのメンバーが『ひみつスタジオ』の収録曲を解説している。
草野は「i-O(修理のうた)」について、特にコロナ禍で世の中のさまざまな不具合が表れ、それを修理しながら進む歌だと説明した。
「紫の夜を越えて」では、社会情勢や政治、スポーツなど、さまざまなニュースのあとに流れることを考えたという。
「どこで流れても大丈夫なタフな曲」
ここは、政府の感染症対策への具体的な評価ではなく、社会の出来事をどう歌に受け止めるか、という制作上の話だ。
出典:J-WAVE公式「スピッツが全曲解説『ひみつスタジオ』」(2023年5月23日公開)
2024年――女性ロッカーの特集で、フェミニズムとの関係を学んだ
TOKYO FMの2024年12月号には、草野がラジオの選曲を振り返るインタビューがある。
そこで取り上げているのが、2022年7月10日放送の「90年代オルタナ系女性ロッカーで漫遊記」だ。
草野は、番組を通じてロックミュージシャンには男性が多いと気づいたこと、男性的な価値観から独立した女性ミュージシャンについて調べたことを説明する。そして、「ロックミュージックとフェミニズムの関係」も分かるようになり、自分にとって勉強になった回だったと話している。
音楽を調べる中で、ジェンダーや価値観の問題も学んだという発言だ。特定の制度や法案への賛否を表明したものではない。
なお、これは2024年のインタビューで過去の番組を振り返った言葉。2022年の放送で同じ文言を話した、という意味ではない。
出典:TOKYO FM 2024年12月号(PDFの2ページ目、Theme 3。紙面画像で確認)
古い雑誌やライブMC――見つかったが、原典には届かなかったもの
ここからは、調べる手がかりが残った資料。次の項目は、本人の言葉として原典と照合できていないため、上の発言集とは分けている。
- 「音楽と人」2016年8月号:男女の役割を決めつけられることへの違和感を語った、と紹介するファンの記録がある。原誌の該当ページは未確認。2024年の公式インタビューとは別の資料。
- 「AERA」1998年4月6日号:出版社の記録で草野が表紙の号だと確認できる。「表紙の人」の文章を紹介する個人ブログも見つかったが、当時の若者をめぐる発言の文言や前後関係は原誌と照合できていない。
- 2001年9月12日・松戸公演のMC:9・11直後に歌うことへの迷いを語ったという2017年の回想がある。公演直後の記録や音源とは確認できず、逐語的な引用には使わなかった。
- 「歩き出せ、クローバー」をめぐるインタビュー:戦争が自分と無関係ではないという趣旨の発言を、書籍『スピッツ』から紹介する解説記事がある。該当ページや初出インタビューを確認できていない。歌詞そのものの解釈とも分けて読む必要がある。
- 「MUSICA」2013年のインタビュー:震災後のアルバムと歌詞の受け止め方を紹介するファンの記録がある。今回、号数と原誌の該当ページまでは確定できなかった。
こうした記録は、古い雑誌を探す入口としては役立つ。ただ、書き手による省略や記憶の違いもありうるので、原誌が見つからないまま強い言葉だけを引用するのは避けた。
「自民党には絶対投票しない」は、今回確認できなかった
調査中、草野の言葉として「自民党には絶対投票しない」という文言が掲示板のまとめに出てきた。
しかし、2017年に掲載されたまとめが根拠として載せているのは、先ほどのTheFutureTimesの対談だ。その対談原文には、この投票宣言は出てこない。
確認できるのは、改憲案を批判した後藤への励ましと、政治的な発信への考え方。そこから草野自身の投票行動や支持政党までは分からない。
別の機会に言っていないと証明できたわけではないが、今回の調査では、日時と媒体を確かめられる本人の発言は見つからなかった。そのため、確定した発言としては採用していない。
どこまで調べたか
公開インタビューと放送局の記事を起点に、雑誌の号数、古い公式サイトの保存記録、ライブMCの回想、個人ブログの放送記録、スピッツを論じた書籍や論文の参考文献へとたどった。湾岸戦争やソ連崩壊を回想するラジオ記録も見つかったが、当時の思い出と政策への意見は区別した。
また、批評家による歌詞の読み方や、研究者によるジェンダー論は、草野本人の政治的発言には数えていない。会員向けブログについては、その存在を語った公開インタビューまでを扱い、非公開の本文は調査していない。
古い紙媒体と過去の放送音源には未確認の部分が残る。これは全発言を網羅した一覧ではなく、いま読める資料と、その確認状況が分かる発言集として公開する。

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