全体主義への抵抗、公文書改ざんへの批判、差別や偏見のない場所への思い。坂本慎太郎は、インタビューで社会の問題をかなりはっきり語っている。
世界中の戦争がなくなってほしい。海外の取材では、そんな願いもまっすぐな言葉にしていた。
「みんなでひとつになろう」という空気への違和感も、長く語られている。ゆらゆら帝国時代から2026年まで、その言葉をたどってみたい。
2005年――社会のことは、普通に暮らしていれば歌詞に出てくる
ゆらゆら帝国の『Sweet Spot』発売時、BARKSのインタビューで坂本は、作品の根底に人間同士の関わり方というテーマがあると話している。
社会的なメッセージが聴こえると聞かれても、特別なことを始めたような口ぶりではない。普段の生活から歌詞ができるのだから、社会のことも自然に出てくる。それを、これまで自分たちがやってきた方法で曲にしたいという。
社会と音楽は、すでにこの頃から地続きだった。
出典:BARKS『Sweet Spot』インタビュー(取材・文:松永尚久、2005年)
2011年――震災の後、「何もなかったこと」にはしたくない
『幻とのつきあい方』を制作していた途中に、東日本大震災と原発事故が起きた。
LIQUIDROOMの取材で坂本は、歌詞には影響があると思うと答えている。歌を聴く側としても、ラブソングに思える曲が震災や原発事故と結びついて響くことが増えたという。
ただ現実を忘れさせる夢のような曲も、現実のひどさをもう一度聞かされるだけの曲も、そのときの自分は聴きたくない。絶望を抱えていても、音楽を聴く時間には楽しさがほしい。
でもなんもなかったことにするのも嫌だし。
励ましや「力を合わせて」という言葉にも、かえって落ち込んでしまう。そういう自分が歌える場所を探していた。
出典:LIQUIDROOM「坂本慎太郎」(2011年11月9日)
2011年――役に立たないものが存在できない世界は恐ろしい
同じ年のタワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」には、今もよく引用される言葉を寄せている。
役に立たないものが存在できない世界は恐ろしい。
音楽は役に立たないからこそ素晴らしい、という言葉に続く一文だ。何かの目的に使えるか、すぐに成果が出るか。そういう物差しだけで世界を埋めてしまうことへの怖さが、短い言葉になっている。
出典:タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE. 坂本慎太郎」(2011年11~12月)
2013年――日本の未来に期待できなくても、何かを作る
米国の音楽誌Wax Poeticsへのメール回答では、自分を含め、日本の将来にあまり期待していない日本人は多いように感じると話している。
それでも、期待が持てないからといって、何かを作ることまで悪いとは思わないと続けた。
未来を明るいと言い切れなくても、作ることは続けられる。『幻とのつきあい方』について語ったこの回答にも、楽観できない世界と音楽の関係が表れている。
出典:Wax Poetics「Phantom Music」(Allen Thayer、原誌2013年秋・Issue 56、Web再掲載2021年11月29日)
2014年――「全体主義的なものに対する抵抗」
『ナマで踊ろう』の取材では、抵抗を感じる対象をもっとはっきり言っている。
Real Soundで文明批判の意識を聞かれると、坂本は、暮らしの中で感じることや、巨大なロックコンサートの宗教的な雰囲気に話を向けた。
全体主義的なものに対する抵抗
それがいちばん大きいという。陶酔や熱狂への恐怖もある。
同じ取材では、みんなが一緒になるのが嫌でバンドを始めたはずなのに、気づけば大きなステージの中心に立っていた、とゆらゆら帝国時代を振り返っている。自分が観客をまとめ上げる側になることにも、居心地の悪さがあった。
出典:Real Sound『ナマで踊ろう』インタビュー前編・3頁、同2頁(取材・文:小野島大、2014年5月23日)
2014年――個人として抵抗し、ばらばらのまま共存する
CDJournalの取材では、個人のままで抵抗することを考えていると話している。
全員が同じ方向を向く熱狂より、違う人がそこにいて共存している状態がいい。理想の演奏風景も、踊る人、話す人、ご飯を食べる人が、それぞれに過ごしている場所だった。
同じ音楽を共有していても、同じ人間になる必要はない。そういう場を、自分の音で作ろうとしていた。
出典:CDJournal『ナマで踊ろう』インタビュー(取材・文:松永良平、2014年5月27日)
2014年――子どもが後から気づく、差別や管理社会の風刺
同じCDJournalの取材で、『ナマで踊ろう』は小中学生に向けて歌っているところがあるとも話している。最初は曲を面白がり、成長してから意味に気づくような聴かれ方だ。
自分たちも、子どもの頃の漫画を読み直して、差別や管理社会への風刺に気づいてきた。それに近いものを音楽でもやりたいという。
「あなたもロボットになれる」については、管理する側だけでなく、人々が苦痛に耐えられず、自ら自分をなくしてしまう世界としても説明した。強制されなくても、自由を手放してしまう。その怖さまで含まれている。
出典:CDJournal『ナマで踊ろう』インタビュー(2014年5月27日)
2016年――「ディスコって」は、差別や偏見のない世界の歌
『できれば愛を』収録の「ディスコって」について、OTOTOYの取材ではこう説明している。
差別や偏見のない世界の歌ですけど
そこには男と女だけでなく、生きている人と死んだ人が、お盆に帰ってくるような感覚も入れたという。
社会的にも聴こえるという問いには、そう見えるけれど、すごくアホっぽくもあり、それが自分の好きな感じだと答える。誰が一緒に踊れるかという話が、生死の境目まで越えてしまう。
出典:OTOTOY『できれば愛を』インタビュー(インタビュー・文:河村祐介、2016年8月18日掲載)
2020年――歴史や記録をいじったら、すべての拠り所がなくなる
「歴史をいじらないで」についてのTOKIONの取材は、公文書改ざんやフェイクニュースを正面から扱っている。
坂本の答えは明快だ。先人の失敗から学べるのは、記録やデータが積み重なっているから。それを後から変えれば、判断の土台そのものがなくなってしまう。
政治だけの話ではないとも続ける。昔の音楽家を再評価するときも、元の記録があってこそ見直せる。記録自体を都合よく変えるのは、別のことだ。
改ざんは正当化できないし、それは堂々と言っていい。歌の題名について、本人がここまではっきり説明している。
出典:TOKION「坂本慎太郎の現在地」(取材:渡辺裕也、2020年11月28日)
2020年――集まって演奏できることが、急に貴重になった
同じインタビューでは、コロナ禍でライブがなくなった日々も語られている。
予定していた海外公演も失われ、音楽そのものをやめる人もいるのではないかと坂本は話す。発表する機会がなくても作り続ける人はいるだろうが、みんながそうとは限らない。
「好きっていう気持ち」「おぼろげナイトクラブ」を、ライブハウスやクラブへの歌として聞いたという問いにも、その影響はあると思うと答えた。人が集まって音を出すことの意味が、以前とは変わっていた。
出典:TOKION「坂本慎太郎の現在地」(2020年11月28日)
2022年――世の中が過酷すぎるから、明るい曲を作りたい
『物語のように』の取材では、明るいアルバムにしたかった理由を、世の中の過酷さに結びつけて話している。
TOKIONでは、耐えきれなくなってきた部分があると語り、自分の気持ちが少しでも明るくなる曲を集めたという。ただ、前向きな言葉で応援されると逆に落ち込む自分もいる。そこで気分を偽らずに歌えるものを探すのは難しい。
ele-kingでも、状況を見ないようにして無理に明るくするのではなく、その状況にいながら楽しめる細い線を探してきたと説明する。
さらにMetropolisの取材でも、社会の雰囲気が音楽に反映されるのは避けられないと話している。明るさを求めること自体が、暗い現実への反応だった。
出典:TOKIONインタビュー(柴那典、2022年6月2日)、ele-kingインタビュー(野田努・松村正人、同年5月19日)、Metropolis「Beyond Legacy, Beyond Trend」(Takahiro Kanazawa、同年7月13日)
2026年1月――トランプ以降の世界で、正気を保つ
『ミュージック・マガジン』2026年2月号の発言を紹介したブログ「無常生活」によると、坂本は、現実社会の異常さが加速したことをトランプ以降の現象として語っている。
その中で自分のテーマになっているのが、正気を保つこと。昔は狂気がすごい表現を生むという価値観もあったが、それは世の中の基盤がしっかりしていたからできたのではないか、と振り返る。
自分を見失わないよう、一生懸命に何かに取り組む。現実のほうが壊れていくとき、創作に向き合う意味も変わってくる。
出典:「無常生活」による同誌の発言紹介(2026年1月21日)、『ミュージック・マガジン』2026年2月号・公式目次(坂本慎太郎インタビュー:柴崎祐二)
2026年1月――デマと公文書改ざんで、社会の基盤が崩れる
Mikikiの取材では、2011年と現在の違いを問われ、今は基盤になっていたものが崩れてしまったように感じると答えている。
挙げているのは、法律に違反しても罰せられないことや、フェイクニュース、デマ、生成AI、そして公文書の改ざんだ。情報が本当かどうかわからず、調べた結果まで疑って、自分で確かめなければならない。
2020年の「歴史をいじらないで」で語っていた問題が、ここでも出てくる。判断の拠り所が壊されることへの危機感は続いている。
出典:Mikiki『ヤッホー』インタビュー(インタビュー・文:風間一慶、2026年1月23日)
2026年1月――傍観者の「神の視点」では歌いたくない
NiEWのインタビューでは、『ヤッホー』の言葉について、世界を上から眺めるような視点が今はしっくりこないと話している。
傍観者っぽいのは何となくダサいな
自分も社会からダメージを受けていて、その影響が歌詞に出ているのかもしれない。『ナマで踊ろう』を今作れば、少し上から目線に感じられるかもしれないとも振り返る。
本当は、もっとハッピーで馬鹿馬鹿しい曲を作りたい。でも、この時代に自分が無責任で能天気なことを歌えば、気持ち悪くなってしまう。その難しさも率直に語っている。
出典:NiEW『ヤッホー』インタビュー・5頁、同2頁(取材・執筆:松永良平、2026年1月23日)
2026年――「おじいさん」には、自分への皮肉もある
「おじいさんへ」についても、NiEWの取材で自分の年齢や自虐が入っていると説明している。同じ曲を聴いても、政治家を思い浮かべた人もいれば、ほのぼのした歌として受け取る人もいたそうだ。
米国のSetlist Kitchenへの回答では、子どもの頃に祖父母によく遊んでもらった思い出を話しつつ、歌のお爺さんは特定の人物を歌ったものではないと説明した。
その言葉が誰に向けられているのか考えるとき、歌い手自身もそこに入ってくる。
出典:NiEWインタビュー・2頁(2026年1月23日)、Setlist Kitchen「Shintaro Sakamoto Says Yoo-Hoo To You」(Josh Kitchen、同年2月3日)
世界中で起きている戦争がなくなってほしい
旅行についての取材でも、世界についての思いを短く答えている。
2026年1月公開のJae-Ha Kimの「Go Away With …」で、旅から学んだ最も大切なことを聞かれると、その場所に暮らす人たちへの敬意を挙げた。2026年への希望を聞かれた答えは、世界平和だった。
同年2月公開のSetlist Kitchenのメールインタビューでは、2026年に世界に起きてほしい変化について、日本語でこう答えている。
今世界中で起きている戦争がなくなってほしいです。
Re-Editionの別の海外取材でも、世界の政治状況や、日本と戦争の可能性を心配していると答えている。平穏な日常がなければ、自由に音楽を作るのは難しいとも話した。
全体主義への抵抗も、違う人が共存できる場所への思いも、記録を壊さないでほしいという言葉も、自分や他人が暮らす世界の話だった。ここではその願いが、まっすぐな一文になっている。
出典:Jae-Ha Kim「Go Away With … Shintaro Sakamoto」(2026年1月13日)、Setlist Kitchen・本人の日本語回答(同年2月3日)、Re-Edition・本人インタビュー(Nami・Akio Kunisawa取材)
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